キナハンズ・ウイスキー

歴史
05 /17 2020

私はときどきオークションでウイスキー関係の昔の広告やパブミラーを買ったりします。こちらは、5年ほど前にあるオークションで買った額縁入りのウイスキーのポスターです。

 

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思いのほか安く競り落とせて、ハンマー・プライスが20ユーロだったと記憶しています。これに手数料が付くので、支払ったのは25ユーロくらい。文字しか書いていない地味な広告だったので、欲しいと思う人はあまりいなかったのでしょう。

 

いつ頃のポスターかということですけど、裏に新聞紙が貼ってあって、そこに「アーマー大司教のダルトン枢機卿」の文字が見えます。ダルトンがアーマーの枢機卿だったのは1946年から1963年までなので、おそらくその時期のものだと思われます。

 

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ジェムソンの12年物のウイスキーのポスターですけど、下部に小さめの文字でバゴッツ、ハットン & キナハン (Bagots, Hutton & Kinahan) と書いてあります。BH&K はいわゆるボンダー (Bonder) またはボトラーですね。ボンダーというのは、自前で保税倉庫を持っていて、蒸留所から買ったウイスキーを樽につめて熟成させ、その後、瓶に詰めて消費者に販売するのです。保税倉庫というのは、その中に保管している間は酒税の支払いを猶予されていて、そこから出す時に初めて酒税を払えばよいという許可を得た倉庫のことです。今は蒸留所が自社で瓶詰めしますけど、昔は、樽で各地のボンダー/ボトラーにウイスキーを卸していたんですね。

 

さて、今回はこの Bagots, Hutton & Kinahan (以下BH&Kと書きます)にいう会社について調べてみたことを書きたいと思います。

 

会社の登記情報を参照できるWebサイトをあたってみると、BH&Kが設立されたのは1927年。会社登記事務所に最後に書類を提出したのは1981年だということがわかります。


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つまり、1981年前後には会社としての存在はなくなっていたはずなのですが、最近になってキナハンズ (Kinahans) というウイスキーが復活したのです。

 

会社の Web サイトの「歴史」ページによれば、キナハンズのブランドは1779年にダブリンのトリニティ・ストリートで生まれました。キナハンズ・ウイスキーはかなり人気があったようで、1819年にはダブリンの中心部に4階建てのビルを構えるようになり、1845年には英国王室御用達となります。


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1862年には、アメリカの伝説のバーテンダーであるジェリー・トーマスが、その著書の中でキナハンズ・ウイスキーを取り上げます。また、キナハンズの人気が高いことから、キナハンズのボトルに他社の劣等なウイスキーを入れて販売する不届き者が続出。これを差し止めるためにキナハンズは裁判に訴え、1863年に勝訴します。

 

ところが、20世紀にはいって潮目が変わってしまいます。アイリッシュ・ウイスキー業界全体が退潮する中、一族の中で経営に大きな役割を果たしていたジョージ・キナハンが逝去。売り上げも低迷します。

 

会社は1912年にバゴッツ & ハットンに吸収され、BH&Kが生まれるわけです。バゴッツ & ハットンも長い歴史のあるワイン/蒸留酒販売業者だったようです。

 

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BH&Kは米国で禁酒法が始まる1920年にキナハンズ・ウイスキーの販売を終了。その後は、冒頭の広告にあるようにジェムソンを販売したり、バゴッツ (Bagots) というブランドでウイスキーを販売していました。


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そして、キナハンズ・ウイスキーが、100年近い眠りから目覚めて復活したのは2014年のことでした。

 

さて、ここで私が疑問に思うのは、現在の経営者はキナハンズの創業家と関係があるのか、ということです。

 

現在のキナハンズ・ウイスキーを販売する会社について、会社登記情報を調べてみると、経営者はルパート・クレバリーというイギリス人のパブ経営者のようです。この人の名前で検索すると、彼が登場する新聞記事がいくつも出てくるので、その業界ではかなり有名な人なのではないかと思います。

 

ここからは私の推測になりますが、クレバリーさんはイギリス人だということからしても、キナハン一族とは関係がなく、キナハンズのブランドの権利を購入してウイスキー事業に参入したのではないかと思うのです。パブを経営しているわけですから、一定の販路は確保できているわけですし。

 

この会社は自社で蒸留所を構えている様子はないので、アイルランドのどこかの蒸留所からウイスキーを購入し、ブレンドして、自社ブランドで販売しているのでしょう。もちろん、それが悪いわけではありません。そういう会社はいくつもあるし、味が良ければ誰も文句はいわないわけです。昔のキナハンズも元々はボンダーだったわけですしね。


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確かティーリング・ウイスキーのジョン・ティーリングだったと思いますが、良いウイスキーを作ることと良いブランドを作ることは別、みたいなことを言っていました。味がいいだけではダメ。ブランド力も必要というわけですね。良いブランドをゼロから作り上げるには時間がかかるので、過去の有名ブランドの権利を買うというのは、これまでもいくつか例がありました。

 

たとえば、ティーリング自身もクーリー蒸留所を経営していたときにワット蒸留所のフラッグシップ・ブランドだったタイコネル (Tyconnell) を蘇らせました(このブランドを現在所有するのは、クーリー蒸留所を買収したサントリー・ビーム社です)。バークス (Burkes) という古いブランドも復活しました。

 

 

さて、一方のバゴッツ・ハットンはどうなったのでしょうか?

 

実はリフィー川沿いにバゴッツ・ハットンというワイン・バー/レストランが2012年頃にオープンし、2018年頃まで営業していました。今年の2月ぐらいまで残ってたバゴッツ・ハットンのツイッター・アカウントのホームページには、「1829年以来、優れたワイン、紅茶、コーヒーをお届けしています」と書かれていました。


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BH&Kのバゴッツ・ハットンの流れを汲むことは明らかですが、このお店の詳細も不明なのです。バゴッツ・ハットンの創業家の人がやっているのか、それとも誰か (クレバリー氏の可能性もあります) が権利を購入して経営しているのか。

 

お店は閉じましたが、まだ外装が残っていたので写真を撮ってきました。残念ながら、私は一度も入ったことはありません。


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1枚のポスターを巡っていろいろ調べてみると面白かったのでブログ記事にしてみました。他にもオークションで買ったウイスキーの広告やパブミラーがあるので、それについてまた記事を書いてみたいと思います。


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tarafuku10

アイルランド・ダブリン在住。男性。