旧ミドルトン蒸留所の見学ツアー

蒸留所
05 /23 2020

20192月、もう1年以上前のことになりますが、コーク県ミドルトンにあるジェムソンの蒸留所を見学に行ってきました。テイスティングでウイスキーも飲むだろうし、ということで、ほんとうに久しぶりに鉄道を使って日帰り旅行をしたのです。そのときのことを、ロードトリップ風に書いていきたいと思います。


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217日の朝、徒歩でダブリン・ヒューストン駅へ向かいます。私のウチから歩いて10分ほどです。


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コーク・ケント駅行き9時発の列車に乗りました。

 

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前日にネットで予約したのですが、予約のときに名前を登録します。列車に乗ると、窓の上の座席番号を書いてあるところに小さいLEDディスプレイがあって、そこに名前が表示されているのです。これは、びっくりしました。

列車の中ではのんびり本を読みました。ウエルベックの『地図と領土』です。この小説、作者のウエルベック自身が作中に登場するんですが、アイルランドに住んでいる設定になっているんですよね。

 

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1130分ごろコークのターミナル駅であるケント駅に着きました。私はこの駅でも1つ見たいものがありました。郵便ポストです。

 

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この郵便ポストは珍しく、差し出し口が上を向いているんです。これでは室内にしか置けませんね。製造されたのが18571859年というのですから、もう160歳を超えて現役です。

 

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駅の構内には古い機関車も展示されていました。

 

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駅の売店でスコーンを買って昼食としたあと、いよいよミドルトン行きの電車に乗ります。今度は見るからに近距離用の電車ですね。

 

ミドルトンまでは電車で25分。ミドルトンの町を歩いて、道に迷わなければ20分ほどでミドルトン蒸留所につきます。

 

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ミドルトンはアイルランド第二の都市であるコークの衛星都市といっていいでしょう。ここからコークに通勤している人も多いはずです。


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さて、いよいよ蒸留所に到着しました。


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旧ミドルトン蒸留所は、もともとは毛織工場であり、それが兵舎になったあと、1825年に蒸留所として生まれ変わりました。実際に稼働したのは1975年まで。新しい蒸留所が隣に建設されたので、この施設はお役御免となったのです。1992年に博物館的なビジター・センターとしてオープンしました。現在の正式名称は “Jameson Experience, Midleton”。俗に “Old Midleton Distillery” などとも呼ばれます。毎年約10万人の観光客がここを訪れるそうです。


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この蒸留所の元々のオーナーはコーク・ディスティラリーズ社です。この会社は、今も販売されているパディー (Paddy) というウイスキーやコーク・ドライ・ジン (Cork Dry Gin) というジンを作っていました。


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ご存じの方も多いと思いますが、20世紀に入ってからアイリッシュ・ウィスキーは退潮の一途。それに歯止めをかけるため、コーク・ディスティラリーズ、ジェムソン、ジョン・パワーの3社が1966年に合併してアイリッシュ・ディスティラーズ社という会社を作り、このミドルトンを生産の本拠地としたわけです。

アイリッシュ・ディスティラーズ社は大企業だけあって、敷地は広いですね。北アイルランドのブッシュミルズよりも大きいと思う。新興のマイクロ蒸留所の比ではありません。


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ロビーで待機した後、ツアー出発です。日曜日ということもあってか見学者は30人ほどの大人数。国際色も豊かです。


ビデオを見せてもらった後、旧蒸留所の建物の中に入ります。非常に古い造りのまま保存されていて、1970年代まで使用されていたというのがちょっと信じられないほどです。


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こちらの大きな建物は、原料である大麦の貯蔵庫として使用されていたようです。


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動力源である水車。この蒸留所は、ダンガーニー川という川のほとりにあります。


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今は使用されていないポットスティル (蒸留器)


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ポットスティルとカラム (コフィ―/連続式)スティルの原理を説明する図。


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ツアーの途中で、稼働している新蒸留所の姿を見ることもできます。手前の古い小屋の後ろに見える近代的な建物がそれです。


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この旧蒸留所は稼働していないと書きましたけど、実は小規模の蒸留施設が設置されているんですね。ここでは研究・実験のために利用しているようです。


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それからこちらは樽職人の作業場だったところです。

 

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お役御免になった古い設備が庭に飾ってあったりします。


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すぐ上の写真に「Worm Tub」と書いてありますが、これは直訳すると「虫の桶」となります。もちろん生きている虫が入っているわけではありません。ポットスティルで蒸留されたアルコールを冷まして液体にするために曲がりくねった管を通すのですが、その管が虫のように見えることから「Worm Tub」と言うようです。

 

ちなみに、ジェイムズ・ジョイスの作品に『ダブリン市民』という短編集がありますが、その最初の短編である「姉妹」の冒頭に、ウイスキーの製造過程を語る文脈で「faints and worm」という言葉が出てきます。「faints」の方は、蒸留した後に残る不純アルコールのことです。


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(今回の記事は別のブログに書いたものを少し修正して転載しています。私は何の気なしに Worm Tub の写真をアップしていたのですが、読者のおひとりにコメント欄で Worm Tub のことをご指摘いただき、あらためて『ダブリン市民』の話を思いだしたのでした。ありがとうございました)


そして最後はお楽しみのテイスティングですね。車じゃないので心おきなく飲めます。

 

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今回のツアーで一番驚いたのは、パディー・ウイスキーがアメリカの会社に売却されたという情報を聞いたことです。パディー・ウイスキーはこの蒸留所の主力商品だったわけですから。ガイドさんの説明では、たまたまこのツアーの翌日が所有権の移る日だと聞いたと思ったんだけど、今Wikipedia を見ると2016年ということになっています。2016年に交渉が成立して、実際に移行したのが2019年ということでしょうか。


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(Paddy ミニボトル)


鉄道の旅は時間が列車の時刻表に縛られるという難点はありますが、本を読んだり、車窓から景色を眺めたりしながら、のんびりと旅ができるのがいいですね。


今回、私は日帰りでしたが、週末に1泊旅行でコーク市内やコーブの街などを見て回るのもいいのではないでしょうか。


さて、ミドルトンは小さな町ですが、和食屋が2軒ほどありました。そのうちの1軒、Ramenという店に入り、Japanese Udon Noodles というのを食べました。チキン入りで12.95ユーロ。焼うどんですね。


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ソフトクリームがもれなくついてきます。カップだけもらってセルフサービスで盛るのです。不器用な私ですが、わりと上手にできました。

 

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ツアーの所要時間は75分間ほど。20203月現在の料金は23ユーロです。48ユーロでプレミアム・テイスティング・ツアーというのもあるようです。(5月現在、コロナウイルスの影響で休業中です)


ジェムソン・ミドルトン蒸留所公式 Web サイト


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新型コロナウイルスがアイリッシュ・ウイスキー業界に与える影響

ニュース/記事
05 /18 2020

515日付のアイリッシュ・タイムズ紙に、「アイリッシュ・ウイスキーの売り上げに悪影響。400人の職が失われる可能性」という記事が掲載されていたので、かいつまんでご紹介します。

 

アイリッシュ・ウイスキーの2019年の年間売り上げは13700万本を記録。これは2010年と比較して2倍の数字だそうです。しかし、アイリッシュ・ウイスキー協会(IWA)の最高責任者であるウィリアム・ラベル氏によると、ロックダウンにより世界中でパブや空港のデューティー・フリーが閉鎖されているため、成長が脅かされているとのこと。

 

「発注はキャンセルされ、在庫を引き取ってくれという要請もある」

 

蒸留所のビジター・センターで働く409人のうち、その多くは政府のCovid-19賃金支援を受けているとのこと。

 

「別の部署に回って仕事を続けている人もいれば、賃金支援を受けている人もいる。状況は毎日のように変わっており、IWAのメンバー企業は雇用を確保することに懸命に取り組んでいる」

 

ウイスキーの生産部門で働く約1000人のほとんどは現在も仕事を続けているとのこと。

 

ジェムソンを生産するアイリッシュ・ディスティラーズ・グループ(IDG)やタラモア・デューのブランドを持つウィリアム・グラント社は、自社の製造ラインを活用してハンド・サニタイザー用のアルコール・ジェルを生産しています。

 

さらには、新進の小規模蒸留所もサニタイザーの生産に協力しています。たとえば、コナハト・ウイスキー社は、80,000本の250mlボトルを医療機関に提供し、個人消費者にも販売しています。

 

Ibec (アイルランドの経営者の団体、日本で言えば経団連みたいなところ) 傘下にあるアルコール飲料の業界団体のドリンクス・アイルランド (Drinks Ireland) は、ウイスキーの売り上げを推進するため、大学のマーケティング学科の卒業生をウイスキー業界で雇用するにあたって、その賃金の70%を支援してくれるようにアイルランド政府および北アイルランド自治政府に要請するとしています。70%の支援というのは過去にも事例があるそうです。

 

ラベル氏は、こうした支援は、パンデミック後のウイスキー業界の再興と、マーケティング学科の卒業生の雇用促進に役立つとしています。



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キナハンズ・ウイスキー

歴史
05 /17 2020

私はときどきオークションでウイスキー関係の昔の広告やパブミラーを買ったりします。こちらは、5年ほど前にあるオークションで買った額縁入りのウイスキーのポスターです。

 

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思いのほか安く競り落とせて、ハンマー・プライスが20ユーロだったと記憶しています。これに手数料が付くので、支払ったのは25ユーロくらい。文字しか書いていない地味な広告だったので、欲しいと思う人はあまりいなかったのでしょう。

 

いつ頃のポスターかということですけど、裏に新聞紙が貼ってあって、そこに「アーマー大司教のダルトン枢機卿」の文字が見えます。ダルトンがアーマーの枢機卿だったのは1946年から1963年までなので、おそらくその時期のものだと思われます。

 

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ジェムソンの12年物のウイスキーのポスターですけど、下部に小さめの文字でバゴッツ、ハットン & キナハン (Bagots, Hutton & Kinahan) と書いてあります。BH&K はいわゆるボンダー (Bonder) またはボトラーですね。ボンダーというのは、自前で保税倉庫を持っていて、蒸留所から買ったウイスキーを樽につめて熟成させ、その後、瓶に詰めて消費者に販売するのです。保税倉庫というのは、その中に保管している間は酒税の支払いを猶予されていて、そこから出す時に初めて酒税を払えばよいという許可を得た倉庫のことです。今は蒸留所が自社で瓶詰めしますけど、昔は、樽で各地のボンダー/ボトラーにウイスキーを卸していたんですね。

 

さて、今回はこの Bagots, Hutton & Kinahan (以下BH&Kと書きます)にいう会社について調べてみたことを書きたいと思います。

 

会社の登記情報を参照できるWebサイトをあたってみると、BH&Kが設立されたのは1927年。会社登記事務所に最後に書類を提出したのは1981年だということがわかります。


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つまり、1981年前後には会社としての存在はなくなっていたはずなのですが、最近になってキナハンズ (Kinahans) というウイスキーが復活したのです。

 

会社の Web サイトの「歴史」ページによれば、キナハンズのブランドは1779年にダブリンのトリニティ・ストリートで生まれました。キナハンズ・ウイスキーはかなり人気があったようで、1819年にはダブリンの中心部に4階建てのビルを構えるようになり、1845年には英国王室御用達となります。


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1862年には、アメリカの伝説のバーテンダーであるジェリー・トーマスが、その著書の中でキナハンズ・ウイスキーを取り上げます。また、キナハンズの人気が高いことから、キナハンズのボトルに他社の劣等なウイスキーを入れて販売する不届き者が続出。これを差し止めるためにキナハンズは裁判に訴え、1863年に勝訴します。

 

ところが、20世紀にはいって潮目が変わってしまいます。アイリッシュ・ウイスキー業界全体が退潮する中、一族の中で経営に大きな役割を果たしていたジョージ・キナハンが逝去。売り上げも低迷します。

 

会社は1912年にバゴッツ & ハットンに吸収され、BH&Kが生まれるわけです。バゴッツ & ハットンも長い歴史のあるワイン/蒸留酒販売業者だったようです。

 

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BH&Kは米国で禁酒法が始まる1920年にキナハンズ・ウイスキーの販売を終了。その後は、冒頭の広告にあるようにジェムソンを販売したり、バゴッツ (Bagots) というブランドでウイスキーを販売していました。


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そして、キナハンズ・ウイスキーが、100年近い眠りから目覚めて復活したのは2014年のことでした。

 

さて、ここで私が疑問に思うのは、現在の経営者はキナハンズの創業家と関係があるのか、ということです。

 

現在のキナハンズ・ウイスキーを販売する会社について、会社登記情報を調べてみると、経営者はルパート・クレバリーというイギリス人のパブ経営者のようです。この人の名前で検索すると、彼が登場する新聞記事がいくつも出てくるので、その業界ではかなり有名な人なのではないかと思います。

 

ここからは私の推測になりますが、クレバリーさんはイギリス人だということからしても、キナハン一族とは関係がなく、キナハンズのブランドの権利を購入してウイスキー事業に参入したのではないかと思うのです。パブを経営しているわけですから、一定の販路は確保できているわけですし。

 

この会社は自社で蒸留所を構えている様子はないので、アイルランドのどこかの蒸留所からウイスキーを購入し、ブレンドして、自社ブランドで販売しているのでしょう。もちろん、それが悪いわけではありません。そういう会社はいくつもあるし、味が良ければ誰も文句はいわないわけです。昔のキナハンズも元々はボンダーだったわけですしね。


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確かティーリング・ウイスキーのジョン・ティーリングだったと思いますが、良いウイスキーを作ることと良いブランドを作ることは別、みたいなことを言っていました。味がいいだけではダメ。ブランド力も必要というわけですね。良いブランドをゼロから作り上げるには時間がかかるので、過去の有名ブランドの権利を買うというのは、これまでもいくつか例がありました。

 

たとえば、ティーリング自身もクーリー蒸留所を経営していたときにワット蒸留所のフラッグシップ・ブランドだったタイコネル (Tyconnell) を蘇らせました(このブランドを現在所有するのは、クーリー蒸留所を買収したサントリー・ビーム社です)。バークス (Burkes) という古いブランドも復活しました。

 

 

さて、一方のバゴッツ・ハットンはどうなったのでしょうか?

 

実はリフィー川沿いにバゴッツ・ハットンというワイン・バー/レストランが2012年頃にオープンし、2018年頃まで営業していました。今年の2月ぐらいまで残ってたバゴッツ・ハットンのツイッター・アカウントのホームページには、「1829年以来、優れたワイン、紅茶、コーヒーをお届けしています」と書かれていました。


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BH&Kのバゴッツ・ハットンの流れを汲むことは明らかですが、このお店の詳細も不明なのです。バゴッツ・ハットンの創業家の人がやっているのか、それとも誰か (クレバリー氏の可能性もあります) が権利を購入して経営しているのか。

 

お店は閉じましたが、まだ外装が残っていたので写真を撮ってきました。残念ながら、私は一度も入ったことはありません。


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1枚のポスターを巡っていろいろ調べてみると面白かったのでブログ記事にしてみました。他にもオークションで買ったウイスキーの広告やパブミラーがあるので、それについてまた記事を書いてみたいと思います。


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アイリッシュ・ウイスキーの発展を促すための税制改革の提案

ニュース/記事
05 /16 2020

アイルランドは酒税が高いので、ウイスキーも高いです。先日、スーパーマーケットのテスコに行って調べてきたんですが、スタンダードの700ml入りだと、ジェムソンが25ユーロ、パワーが22ユーロ、ブッシュミルズ、パディー、タラモアデューが20ユーロでした。近所のお高めのスーパーだとジェムソンが30ユーロです。たぶん普通の酒屋だともちょっとします。アマゾンで調べてみると、ジェムソンは日本では2000円弱で買えますものね。


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以前も書きましたが、アイリッシュ・ウイスキーはここ10年くらいで復興の槌音も高く、稼働中、建設中、承認待ちの蒸留所を合わせると35くらいあるそうです。輸出産業の柱の1つに成長しつつあると言っても過言ではありません。また、ウイスキー・ツーリズムと言って、蒸留所の見学に訪れる観光客も多いわけです。

 

アイリッシュ・ウイスキー協会(IWA)の推定によると、2018年には約923,000人の観光客が蒸留所を訪問しています。この数は5年以内に数百万にまで上昇するのではないかと同協会は見ています。ウイスキーが目的の観光客は1人平均約60ユーロを使うので、アイリッシュ・ウイスキー業界の売り上げに約5,500万ユーロほど貢献しています。これにプラスして、宿泊費や交通費がアイルランドに落ちるわけです。

 

しかし、酒税が高いため、蒸留所を見学に来たのに、お土産にウイスキーを買う気にならないわけですよ。自分の国に帰って買った方が安いわけですから。蒸留所でしか買えないスペシャル・エディションは別として。

 

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さて、私は『アイリッシュ・ウイスキー・マガジン』という季刊誌を購読しているのですが、最新号にアイリッシュ・ウイスキーの税制に関する3つの提言という記事が載っていたのでご紹介したいと思います。筆者は、アメリカ人のジョゼフ・V・ミカレフさんというワイン/蒸留酒評論家の方です。 

 

提言その1: 最初の10万リットルまでのウイスキーにかかる酒税を50%以上低くする

 

まず、アイルランドの酒税がどれだけ高いか、他国と比較してみましょう。アイルランドの酒税は純アルコール1リットルあたり34.58ユーロ、イギリスが33.57ユーロ、アメリカが約7.4ユーロ。日本は約1000円だと思います。

 

アイルランドの場合、酒税にもVAT(消費税に似た税) 23%かかります。イギリスの場合は酒税分にはかかりません。アメリカはVATはありませんが、小売価格に州が定める売上税が加算されます。アイルランドは高いです。

 

そこで、ミカレフさんは、蒸留所が産出する最初の10万リットルにかかる税金を下げてみてはどうか、と提言します(記事にははっきり書いてないのですが、年に10万リットルということだと思います)

 

これは、大規模な蒸留所にはたいしたメリットにはならないかもしれませんが、小さな蒸留所には大きな意味があります。事業を始めたばかりの蒸留所にとって、キャッシュフローの改善や財務の安定という点で、この税金優遇措置はありがたいはずです。

 

こうした税制改革には、EUの法律の改正が必要です。しかし、これには前例があるのです。ビールの醸造については、一定限度まで税の優遇が認められており、マイクロ・ブリュワリーはその恩恵を受けています。IWAはアイルランド政府にロビー活動をして、法律の改正をEUに要求するようにプレッシャーをかけたのですが、残念ながらアイルランド政府は拒否したそうです。

 

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提言その2: 蒸留所のギフトショップに免税店と同じような税の優遇を認める

 

これは冒頭でも書きましたが、自分の国に帰って買う方が安いのであれば、わざわざギフトショップで買って、持って帰ろうとはしません。そこで、蒸留所に併設のギフトショップには免税店に匹敵する税制優遇措置を与えて、観光客の購買意欲を刺激してはどうか、という提言です。蒸留所にとっては、当然のことながら、ギフトショップで直売した方が、利益率は高くなるわけですから。

 

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提言その3:  樽で購入する消費者には、樽の購入時ではなく、熟成して瓶詰めにした時点で課税する

 

これはある程度お金を持っている方の趣味になりますが、蒸留して樽詰めした時点で樽ごとウイスキーを買う方がいるわけです。ある種の投資として購入する人もいます。新しい蒸留所にとって、これは財政的に非常に助かるわけです。3年とか熟成させなくても、すぐにお金が入ってくるわけですから。

 

酒税を樽の購入時ではなく、瓶詰めにして倉庫から出すときに支払うことにすれば、初期費用が小さくなります。したがって、より魅力的な商品になる、ということですね。

 

ミカレフさんの提言は以上です。

 

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「アイリッシュ・ウイスキーのブームは始まったばかりだ」とミカレフさんは書いています。その成長はこれからも長く続くだろうが、アイルランド政府のサポートや税の優遇があれば、ウイスキー産業は大きなメリットを受けるだろう、とも。

 

政府の税収が大きく減らすことなく、アイルランドのウイスキー産業の振興を図ろうというこれらの提言。具体的で実行可能なものばかりではないでしょうか。19世紀後半のアイリッシュ・ウイスキーの栄華を取り戻すためにも、ぜひ真剣に検討してもらえたらいいなと思います。


 


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ロウ&コ蒸留所

蒸留所
05 /15 2020
2019年の夏の終わりにオープンしたロウ&(Roe & Co Distillery) 蒸留所は、リバティーズ地区で操業する4番目の蒸留所となりました。

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ロウ&コ蒸留所は、ディアジオ社が親会社です。ご存じのようにディアジオ社は、アイルランドのビール会社であるギネスと、イギリスのグランド・メトロポリタン社との合併により1997年に生まれた会社です。ディアジオ社は、スミノフ、ジョニー・ウォーカー、ベイリーズ、そしてもちろんギネスなどのブランドを所有しています。

 

合併に先立つ1986年、ギネス社はスコッチ・ウイスキーの代表的メーカーであったザ・ディスティラーズ社を買収しています。したがって、ディアジオ社は数多くのスコッチ・ウイスキーのブランドを所有しているのです。例をあげれば、ジョニー・ウォーカーのほか、ベルズ、ブラック&ホワイト、ブキャナンズ、オールド・パー、ヘイグ、ホワイト・ホース、タリスカーなどです。

 

巨大アルコール飲料企業であるディアジオは、バーボン (IWハーパー)、カナディアン・ウイスキー (クラウン・ロイヤル)などのブランドも傘下に収めていました。ところがアイリッシュ・ウイスキーのブランドはまったく持っていなかったのです。そこで、アイリッシュ・ウイスキーもポートフォリオに加えたい、と思ったのがロウ&コ蒸留所を作った1つの理由ではないかと思います。

 

また、歴史のある有名ブランドが古臭いと感じる人が多くなっているようで、ビールでもクラフト・ビールの人気が高まっています。ギネスでも、ホップ・ハウス13、ギネス・ウェスト・インディーズ・ポーターなど、クラフト・ビール風の製品をプロデュースし、コマーシャルなどにもかなりの予算を使っています。同様に、ウイスキーに関しても、マイクロ・ディスティラリ―に投資することで、若々しくてチャレンジ精神旺盛なイメージを打ち出したかったというのもあるのでは、と私は思っています。


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ロウ&コ蒸留所は、ギネスビール工場/ビジター・センターのすぐそばにあります。また、ピアース・ライオンズ蒸留所も目と鼻の先です。蒸留所の建物は、もともとはトーマス・ストリート蒸留所の一部でした。1800年代後半の全盛期にはダブリン最大の生産量を誇った蒸留所だったのですが、残念ながら1920年代に財政難から操業をストップしてしまいました。

 

ギネスに譲渡されたこの建物は、ギネス工場用の発電所としてしばらく使用されました。その務めを終えたあと、しばらく廃屋になっていたのですが、ディアジオが2,500万ユーロを投資したことにより、蒸留所として生まれ変わったのです。

 

蒸留所ができてすぐの20199月に私はさっそく蒸留所見学ツアーに参加してきましたので、そのときの様子をご紹介したいと思います。

 

25ユーロでチケットを買い、ショップ兼バー/カフェみたいなスペースで時間が来るまで待ちます。


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平日ということもあってか、私以外の見学者は8人ほど。全員がアイルランド人でした。2階に上る階段のところでガイドさんの説明を聞きます。下の写真にあるように、階段の壁にはアイリッシュ・ウイスキーの歴史が書いてあります。


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次は渡り廊下の上から、実際に稼働している蒸留過程を見ることができます。アイリッシュ・ウスキーは伝統的に3回蒸留すると言われますから、ここにも3つ蒸留器がありますね。


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次は、Room 106 という部屋に入ります。


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106というのは、最終的に商品を完成させるまでに試したサンプル・ブレンドの数だそうです。ここでは、実際のウイスキーを味見しながら、原料や作り方などについて説明を受けます。


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次の部屋は Flavours Room という名前なのですが、ここがこの蒸留所のツアーのユニークなところになります。好みに合わせて自分でカクテルを作りましょう、という趣向なのです。


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甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の中から1つを選び、ロウ&コ・ウイスキーをベースにして作るのです。私はカクテルを作るのも初めてだし、メジャー・カップを触るのすら初めてじゃないかなと思います。これはおもしろかったです。


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最後はバーでのんびりワン・ドリンク。せっかくなので私はカクテルをいただきました。


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この見学ツアーの特徴は、カクテルに重点を置いていることや、バー/ショップの内装からもわかるように、若い男女をターゲットとしていることです。ウイスキーと言うと、渋めの男性がロック・水割り・ストレートで飲んでいるという印象が強いと思いますが、そういうイメージとは別の路線を目指しますよ、ということなのでしょう。ボトルのデザインにもその意思は表れているように思います。


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ロウ (Roe) という名前は、トーマス・ストリート蒸留所を経営していたロウ一族にちなむものです。1800年代後半に、世界最大のビール醸造所であったギネスと、世界最大のウイスキー蒸留所を所有していたロウ一族が、21世紀になって合体したということになります。

 

私は見学ツアーに1人で参加したのですが、カクテルを作るときにわいわいできるので、お友達と出かけた方が楽しいと思います。いまウェブページを調べてみたら、時間帯によっては、17ユーロで入場できるようです。

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tarafuku10

アイルランド・ダブリン在住。50代男性。